「ブレイキング・バッド」「エル・カミーノ:ブレイキング・バッド・ムービー」「 ベターコールソウル 」のすべてのオリジナル音楽を担当した作曲家、デイヴ・ポーター氏。彼のお気に入りのキャラクターがなぜマイク・エルマントラウトなのか?
「 ベターコールソウル 」も終了した現在、この番組が彼の作曲家としてのキャリアに与えた影響についてAMC TALKで語っています。
「ブレイキング・バッド」と「ベター・コール・ソウル」の音楽のテーマはどのようにつながっていたのか、そして「ベター・コール・ソウル」が「ブレイキング・バッド」の時間軸と交差する中で、どのように変化したのかについてポーター氏は、
“「 ベター・コール・ソウル 」の音楽を始めることになったとき、ピーター(・グールド)とヴィンス(・ギリガン)は、この番組(ベターコールソウル)には違うサウンドが必要だと断固として主張したんです。
当時、ジミー・マッギルという新しいキャラクターに出会い、彼らは本当に再出発を望んでいました。「 ベター・コール・ソウル 」を始めた当時は、「 ブレイキングバッド 」の終了からそれほど時間が経過しておらず、私たち全員がほぼ同じチームで、例えばマイク・エルマントラウトなど、多くのキャラクターはそのままで新しいキャラクターではないため、実はこれが私がしなければならないクリエイティブな取り組みの1つでした。
だから、“違うものにはするけど、そんなに違わない。結局、「ブレイキング・バッド」はかなり成功したのだから、あまり変える必要はないでしょう?”とね。
しかし、彼ら(ヴィンスとピーター)は絶対に譲らなかったし、その通りでした。その理由は、「ベター・コール・ソウル」の数シーズン後、「ブレイキング・バッド」のキャラクターが続々と登場し、時間軸も「ブレイキング・バッド」に近づいていきた事で、ようやくクリエイティブな面で初めて理解できました。
そこで、「ブレイキング・バッド」で使ったサウンドやモチーフを再び取り入れることができ、新たな出発点とすることができました。「ブレイキング・バッド」では知らなかったジミー=ソウル=ジーンの新たな一面を、新しい視点から見ることになるので、再び新鮮なものに感じられたのです。”
「ベーターコールソウル」では各シーズン第1話の冒頭で、「ブレイキングバッド」のその後のソウル=ジーン・タカヴィックを描いていましたが、シーズン6は最後の4話のほとんどがジーンの話で、今までは全く違っていました。
“今回もまた、完全な作り直しでした。ヴィンスとピーターは、明らかに番組のあらゆるレベルで、撮影方法からアート・ディレクションまで全て話しました。
音楽に関しては、再び構築された物を作り直すチャンスでもあり、第10話「Nippy:迷子犬」ではそれを大いに実践しました。「ベター・コール・ソウル」の冒頭とは似て非なるものです。そして、最終回を迎え、ジーンは自分の道を切り開くことができず、おなじみの失敗をする様子が描かれていますが、第10話で紹介した新しいスコアを背景に、「ブレイキング・バッド」と「ベター・コール・ソウル」の両方のトーンを再び紹介します。つまり、この4つのエピソード(第10〜13話)で描かれる大きな音楽の物語の、小さな縮図なのです。”
「 ブレイキングバッド 」「 ベターコールソウル 」でのジミー・マクギル=ソウル・グッドマン=ジーン・タカヴィックの3人は、ぞれぞれが独特な個性があり、とても魅力的でした。音楽的にはそれがどのような挑戦となったのかという質問について
“結構厄介です。ですので、ジミー、ソウル、ジーンの頭の中がどうなっているのか、時には時系列がどうなっているのかを知るために、できる限り脚本家に質問しました。
番組の作曲家として、また番組のストーリーを伝える手助けとして、私がやろうとしていることのひとつは、それらのさまざまな瞬間を少し明確にすることです。そして、私たちが飛び回るのを、観客のみなさんがフォローしてくれるようにすることです。
例えば、第11話(「 ブレイキングバッド 」)の冒頭で、ウォルトとジェシー、ソウルがフラッシュバックするシーンがありますが、そのシーンがつながっている「ブレイキング・バッド」シーズン2 第8話「ベター・コール・ソウル」あたりまで意図的にさかのぼって、それらの音をたくさん使っていることを確認したんです。
クリエイティブなアイデアをたくさん使って、私たちが飛び回るときに観客がそのつながりを理解しやすくなるようにしました。
番組でも、映画『エル・カミーノ:ブレイキング・バッド・ムービー』でも、意図的に正確なスコアを再現している場面がいくつかありますが、それはあるシーンを別の角度から見直すためです。
過去にもそうしたことはありましたが、『ベター・コール・ソウル』では新しいものが多いので、『ベターコールソウル』ではあまりやっていません。「ブレイキング・バッド」ですでに見てきたことと同時進行で起きていることなのです。
キム・ウェクスラーは、ファンの間でも人気のあるキャラクターです。特にシーズン6の後半で、彼女の状況が一変しました。このようなエピソードでは、どのように音楽的なアプローチしたのか気になるところ。
“本当は、キム自身というよりも、2人の関係を語ろうとする形で音楽的に応えてきたのです。つまり、素晴らしくも悲劇的なラブストーリーなのですが、結局のところ最終的にはソウルの目を通して語っている部分が多いのです。
ですので、今シーズンも過去のシーズンも、特にキムのために音楽的に何かをすることはなかったです。しかし、2人の関係がどのように発展していくかに関連した音楽はたくさんあり、最終回ではその続きが見られると思います。
また、第12話「Waterworks:灌漑(かんがい)事業」をご覧になった方はご存知だと思いますが、キムの最悪の状態、どん底の状態にあえて音楽をつけないことにしています。
その分、彼女の静かで哀れな姿を丁寧に残しています。
シャトルバスでのシーンもその典型的な例ですね。しかし、エピソード全体では、フロリダでのキムのシーン、アルバカーキへの往復のシーンでもスコア(音楽)はありません。
ジーンが詐欺の癌患者のターゲットの家に不法侵入し、運命的に愚かな決断を下すジーンに関連するものはあります。でも、最終回に近いエピソードでこれほど静かなのは、実はとても珍しいことなんです。
しかし、私たちはこのエピソードを見たとき、このエピソードがより力強いストーリーであることに疑いの余地はなく、特にキム側では、彼女がただ一人であることが重要だと思いました。彼女は絶望的なまでに孤独なのです。
デイブ・ポーター自身も『ベター・コール・ソウル』の大ファンだそうで、音楽を書くにあたって、特に好きなキャラクターはマイク・エルマントラウトだそうです。
“お気に入りのキャラクター、、難しい質問ですが、ナチョ・イグナシオとマイク・エルマントラウトが拮抗していると言えるでしょうね。
彼は、あのごつごつした顔だけで多くを語り、もちろん番組の中でも素晴らしく魅力的なことをするので、両シリーズのスコアを書く上で、私の好きな機会をいくつか与えてくれました。
マイクが何をしようとしているのか、見ていて気になるという意味では、今シーズン(シーズン6)の早い段階、エピソード2(Carrot and Stick:アメとムチ)の冒頭で、ナチョのアパートの部屋に侵入して金庫を開けるシーンがありますよね?あれは特に面白かったですね。でも、前のシーズンに戻ると、ガスが何を企んでいるのかと色々と探ろうと嗅ぎ回るシーンや、アルバカーキを動き回って探偵的な仕事をするシーンもあって、これはとても楽しい仕事でした。”
デイブ・ポーター氏は、「Better Call Saul Insider Podcast」で、番組の音楽は製作過程のかなり終盤の段階で手がけると述べています。その理由についても述べています。
“正直なところ、作曲家というのはそういうものなのです。作曲家の中には、かなり早い製作時期から関わっていて、もっと深く関わりたいと思う人もいます。
でも、私にとって音と音楽は、テレビや映画では常に最後に起こるもので、私の前に行われるクリエイティブな決定から多くのヒントを得ています。
ですので、私は最後になるのが好きなんです。前にも言いましたが、私は番組のファンで、こういう番組のどのエピソードも最初に見るときは、ファンとしてただ座って見るので、最後になるのはラッキーなことなんです。この時は、音楽のことは考えていません。何をするか考えているわけでもないし、メモを取ったりするわけでもないんです。初めて見るのだから、純粋にドラマを楽しもうと思っています。
当然、この段階では音楽は入っていませんし、音もあまり出ません。でも、それ以外は完全なものです。ファンとして、何が起こっているのか、自分自身の反応や感情を計ることができるのは、素晴らしい贈り物です。
そして、2回目、3回目と観たときに、「最初に観たときはこの緊張感を感じたけど、あのすごい緊張感をもっと高めるにはどうしたらいいんだろう」とクリエイティブに考えることができるんです。
あるいは、ボブ・オデンカークが怒りや恐怖を微妙なタッチで表現するために、ある方法を選択したことがわかるのですが、それをどうすれば微妙にこのパフォーマンスを補強できるのか?このようなクリエイティブな判断をする事は、非常に多くあります。
脚本から最終バージョンまでに多くのことが変わるので、私の仕事は楽になります。なぜなら、私の前にいるプロたちが素晴らしい決断をしてくれて、そこから台無しにしないかどうか、そこから先は正直に言って私次第だからです。”
デイブ・ポーター氏は、「ブレイキングバッド」「エル・カミーノ:ブレイキングバッド・ムービー」「ベターコールソウル」の他に「ブラックリスト」、AMCの「プリーチャー」なども手がけています。「ベターコールソウル」とは仕事のアプローチは変わるのでしょうか?
“どれも仕事の進め方が少し違います。「ブラックリスト」のようなネットワーク番組では、毎年22エピソードが放送され、「ベター・コール・ソウル」のような番組よりもエピソードごとにかなりの数の音楽が使われるので、少し異なる考え方が必要になります。
時には同僚と息が合っていなければならないし、とても迅速に動かなければならないし、「ベター・コール・ソウル」のようにじっくり考えている時間はないかもしれませんね(笑)
でも、結局のところ本当に似ていると思いますね。私にとっては、クリエイターやライターから、彼らの考えるストーリーを伝えるために自分はどうすればよいのか、できるだけ多くの情報を聞き出そうとすることです。彼らとのコミュニケーションが、多ければ多いほど良いのです。これはどんな番組でもあろうと同じです。
「ブレイキングバッド」「エルカミーノ」「ベターコールソウル」での経験は、私の全てです。私の作曲家としてのクリエイティブなキャリアとプロフェッショナルなキャリアのバックボーンとなっています。
「ブレイキング・バッド」とこの世界を始めたとき、私はプロとしてもかなり未熟だったと思います。その何年も前にLAに引っ越してきたばかりで、「ブレイキング・バッド」を始める前にドラマシリーズを1本手がけただけだったのです。
この16年間、私の人生の中で創造的でプロフェッショナルな柱となるものでした。一つの時代の終わりということで、まだ実感が湧きません。
私はただ、この仕事から学んだことに対し、非常に大きな祝福を受けていると感じています。この先、また多くの人たちと一緒に仕事をすることになるでしょうけど、おそらく全員が一度に揃うことはないだろうと思うと、確かに気が重くなりますね。
ヴィンス(ギリガン)やピーター(グールド)、メリッサ(バーンスタイン)、、この人たちはみんな、私にとって家族のようなものです。私たちの世界では、この言葉は少し使い古されていると思いますが、もしそれが本当なら、このグループにも当てはまります。
なぜなら、1つだけでなく2つの大成功したプロジェクトでこれほど長く一緒に仕事をするというのは、とてもユニークな状況だからです。正に「光陰矢の如し」、2度あることはないです。改めて、本当に感謝しかありません。”
先日、最終回を迎え完結した「ベターコールソウル」ですが、音楽的な側面からこうやってみてみるのも、また面白いですね。
しばらくは、改めて3部作を様々な視点で繰り返し鑑賞して楽しんでみようと思います。
🔚
via AMCTalk
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