Xbox20周年を前に、「Xboxはいかにしてコンソールを卒業したのか:フィル・スペンサーの数十億ドルの賭けの内側」というタイトルで、GQがフィル・スペンサー氏とMicrosoftの開発チームにインタビューを行い、Game Pass、Xbox Cloud Gaming、Halo Infinite、The Elder Scrolls VIの独占販売など、XBOXの野心的な未来について語っています。
スペンサー氏は、Halo InfiniteをXbox Series Xのローンチタイトルとして発表してしまった事を後悔しているようです。
「ゲームを発表し、ゲーム機の発売と同時に発売すると話してしまったことが気に入らないのです。そして、1カ月も経たないうちにそれを延期という形で動かしてしまった。。」
Halo Infiniteは、XBOXの象徴的なブランドHALOの最新作であり、次世代XBOXコンソールの目玉となる作品だったので、XboxシリーズXとSのローンチに必要な作品でした。
Halo Infinite発売の僅か4ヵ月前の7月に開催されたショーケースで披露されましたが、失望した多くの批判的な評判が広まったため、Xboxは発売を2021年に延期しました。その結果、Xboxは大きな独占ゲームがない状態で発売されることになりました。
ソニーは「PlayStation 5」を発売する際に、3つの大ヒット独占ゲームを用意したことに比べると大きな欠点でした。
「私たちは事前に知っておくべきでしたし、自分自身に正直になるべきでした。私たちは、騙されていたわけではなく、“希望“を持っていたのです。しかし、“希望“が優れた開発戦略であるとは思っていません。」
と述べ自分の見立ての甘さを反省し振り返っています。
フィル・スペンサー氏はXbox部門トップに就任以降、常にユーザー目線でユーザーを中心に見据え、ユーザーが何を求めているのかを的確に把握して戦略を打ち出し、ゲームの未来がどうあるべきかなど明確なビジョンを持っています。
15年前、XBOXはマイクロソフトを窮地に追いやりました。それは、2006年に起きた有名なXbox 360の「レッドリング(Red Ring of Death)」と呼ばれるハードウェアのリコール問題で、大きな失敗となりその修復に10億ドルもの追加費用が必要でした。他にもディスクドライブの欠陥でディスクに傷が付き、ディスクが読み取れなくなるなどもありました。これも致命的だったと思います。
そしてその後継モデルとなるXboxOneでは、ゲーム機というより「エンターテインメント」システムのハブとなるマシンを作ってしまい、その結果ゲーマーからは大きな反発を招き、その反発から立ち直ることができませんでした。
しかもKINECTを標準同梱とした事で、コンソール本体のコストを圧迫せざるを得なくなり、PS4に比べて性能面でも見劣りする事になり、Xbox360で10億ドルもの費用で立ち直って復活し獲得したシェアをまたもXbox Oneで失ってしまったのです。
当時、Xbox部門を指揮していたドン・マトリック氏は、Xbox One発表から僅か2ヵ月で会社を去ってしまいました。最終的に、Xbox Oneの総販売台数は5,100万台で、ソニーが販売したPS4の1億1,600万台の半分にも到達出来ませんでした。
ドン・マトリック氏の後、就任したフィル・スペンサー氏は躓いてしまったXboxを次の世代へと導き、チームに新たな自信と目的を与え仕切り直すのに最適な人材と言えます。しかし、それは簡単なことではなかったようです。
スペンサー氏は次のように述べています。「私は完全に準備不足で、自分の本領を発揮できないと感じました。私はたまたまその場にいた、おそらくまだ残っていた人材で最も年長の人間だったのです。成功するためには、周囲の人々を活性化させる必要がありました。もし、彼らが “なぜ我々はここにいるのか? “と疑問に思っていたら、我々にはチャンスはないでしょう。PRの問題でもビジネスの問題でもありませんでした。私たちのチャンスは、チームを“再活性化“させることでした。そしてそれは旅のようなものでした。」
フィル・スペンサーは数多くのゲームユーザーから支持される的確な施策を打ってきた事で、XBOXは間違いなく復活しつつあります。後方互換、Xbox One X、Xbox One S、Xbox Series X、Xbox Series S、後方互換Enhanced、クラウドゲーミング、ゲームパス、オートHDR、クイックレジュームなどなど、、全てフィル・スペンサー氏が就任してからのプロジェクトです。
フィル・スペンサー氏になってからはXBOXの性能面も妥協なしで高性能を追求するようになった印象です。
結果的に、スペンサー氏はXBOXを窮地から立て直し、マイクロソフトの全面支援を獲得したのです。今やXBOXはマイクロソフトの主要事業の一角にまで成長しています。
フィル・スペンサー氏
2013年の時点で構想されていたサービス「Xbox Game Pass」は、コードネーム「Arches」という呼称で始まったそうです。Game Passは当初、ビデオゲームのレンタルサービスとしてスタートしましたが、NetflixやSpotifyの普及に伴い、サブスクリプションモデルを採用する事になったようです。
ゲームエコシステム部門の責任者であるサラ・ボンド氏は「かつて、ゲームの収益の75パーセントは、発売後2カ月間で稼ぎ出していましたが、今では2年間に渡っています。」と述べています。
ゲームパスのアイデアはパブリッシャーにも提案されましたが、当初は非常に強い抵抗を受けたそうです。ボンド氏は「“Game Passはゲームの価値を下げることになる“と言われました。その代わりに、リスクが低い旧作ゲームで実験してみてはどうかと提案しました。その結果予想以上の反響があり、さらに大胆な企画が実現することになりました。」と述べています。
結果的に、マイクロソフトにとって「ゲームパス」は他のライバルハードとの大きな差別化ポイントになっています。PlayStationやNintendoユーザーは、ファーストパーティの独占新作タイトルを購入するのに、いまだにフルプライスの出費を強いられています。
「RARE」スタジオの代表クレイグ・ダンカンは、フィル・スペンサー氏に「もし、すべての人がゲームパスで『Sea Of Thieves』をプレイして、我々が1本も売れなかったとしたら、そのような事があっても良いのか?」と聞いたところ、フィル・スペンサー氏はきっぱりと“もちろん”と答えたそうです。結果的に『Sea Of Thieves』はその後、素晴らしいローンチを迎え、ユーザーはいまだに購入し続けているようです。
重要なのは、これでGame Passが機能する事が明らかになり経済的には「100%成功した」とサラ・ボンド氏は述べています。Xboxのビジネスモデルはこれを起点に大きく変わったわけです。それ以来、Xbox Game Studiosのゲームは、その規模や予算にかかわらず、すべて発売初日にゲームパスの恒久的リストに入ります。
エレクトロニックアーツなどの大手も、EA PlayでXbox Game Passと提携しています。1,800万人(2月の公式発表時)の加入者は、非加入者に比べて50%も多く消費しているそうです。驚くべきことに、Game Passに加入するとゲームの平均エンゲージメントが8倍になるとの事。時間が経過し存在を忘れがちなるゲームが、ゲームパスのリストに入るだけでそれだけのプレイヤーを新たに呼び戻す効果があるのです。それをきっかけに、DLCなどの購入などに繋がることもあるかもしれません。
発売から3年が経過した『Sea Of Thieves』のプレイヤー数は2,500万人を突破したばかりですが、その数は今も増え続けているそうです。
しかし、Xboxゲームパスの契約者数は、 2月に1800万人突破の公式発表以降、音沙汰がありません。有名なリーカーが2500〜3000万人の間で、3000万人に近い数字と聞いている。と言う報道もありました。
しかし、今回のインタビュー記事を読んで感じたのは、ゲームパスが明らかにマイクロソフトのゲーム収益構造を大きく変えていると言う事、そしてゲームパス入りで多くのプレイヤーを再びゲームを活性化している事実です。
これはソニー、任天堂より一部の面では先行していると言ってもよいかもしれません。これがこれから先の未来に吉と出るか凶と出るかです。個人的にはNETFLIXやディズニープラスが契約者数を増やしているように、ゲームでも間違った方向性ではないと思います。特にユーザーにとっても財政面でありがたい事です。
ソニーのSIEジム・ライアンCEOはゲームパスには、年々高騰する開発費などから「とても継続的とは思えない」と否定的な発言をしています。
しかし、マイクロソフトには、ゲームパス1800万人に加えてクラウドゲーミングもあります。クラウドゲーミングからゲームパスに誘導、最近はDLしなくてもコンソールからクラウドでプレイなど、様々な手法に挑んでいます。
インタビューではクラウドゲーミングに関してマイクロソフトでクラウドゲーミングをリードするカリーム・チャンドラー氏が興味深い話をしていたので、また近日中に一部をご紹介しようと思います。🔚
via GQ
コメントを残す