なぜPS5は次世代機の初期タイトルで「世界で最もパワフルなコンソール」を凌駕しているのか?その理由。

テック系メディアTheVergeのトム・ウォーレン氏がXboxシリーズXがPS5との初期テストで、多くの部分でパフォーマンスが劣る理由に関して、非常に興味深い記事を書いていますので、一部日本語訳でご紹介したいと思います。

マイクロソフトは、数ヶ月前からXboxシリーズXがいかに強力なコンソールであるかを誇らしげに語ってきました。内部の技術にも早い段階からディープ・ダイブし「世界で最も強力なコンソール」だと宣言してきました。更に特定のAMD技術を持っているというニュースまで出てきて、PS5に対して「謎の優位性」を与えていました。

スペック上では、XboxシリーズXはPS5よりもパワフルに見えますが、しかし、実際には初期バージョンのサードパーティ製ゲームテストでは、PS5がXboxシリーズXよリパフォーマンスで凌駕していることがわかります。

デジタルファウンドリが、PS5とXboxシリーズXの両機種で、数多くの新作ゲームを分析していますが、その結果は予想外で驚くべきものでした。

XboxシリーズXのGPU性能は12テラフロップスで、PS5の10.28テラフロップスであったため、ほとんどの人はコンソール間にはある程度の差があるだろうと予想していました。

Microsoftの次世代Xboxは、PS5より高いレベルのメモリ帯域幅とより多くのコンピュートユニット(PS5=36CU, Xbox Series X=52CU)を備えていますが、ソニーはPS5からパフォーマンスを引き出すために、可変クロックレートで実行し、CU(コンピュートユニット)の数を減らして開発者に提供しています。

XboxシリーズXは、デビル メイ クライ5スペシャルエディションの4Kとレイトレーシングのパフォーマンスモードでは僅かにPS5をリードしていますが、ハイフレームレート・モードはPS5の方が顕著に優れており、シーンによっては40fps以上のフレームレートのギャップがあり、フレームレートの安定面で苦しんでいます。

デジタルファウンドリの編集者であるリチャード・リードベター氏が「この現象は本当に奇妙に見え、Xbox側でGPUが何かによって抑制されている、API制限のようなものがあるのではないか。何かがXBOXで起きている。紙面上では、少なくとも大幅に先行しているはずだ。」と指摘しています。

これらパフォーマンスの突然の低下は、プレイヤーにとってより明確なティアリング(画面に線が入り裂けて見える)やスタッター(カクツキ)が出てしまう事になります。可変リフレッシュレート(VRR)表示は、これを解消してスムーズにするのに大変役に立ちますが、フレームレートの落差幅が大きいと、どちらにしてもフレームレートの不安定さを感じてしまいます。

マイクロソフトはUBIと『アサシンズクリード:ヴァルハラ』のマーケティング契約を結んでいるので、テレビCMなどで宣伝される度に、XboxシリーズX、シリーズSと並んで表示されます。この新作ゲームをコンソールでプレイするにはXboxシリーズXが最適なのではないかと期待してしまいますが、PS5がまたしても上回る結果となっています。

デジタルファウンドリによると、XboxシリーズX版の「アサシンクリード:ヴァルハラ」には画面のティアリングが多く、60fps以下の定期的なディップが含まれていることが判明しました。PS5版はよりスムーズに動作しているように見えます。XboxシリーズXでは、可変フレッシュレート(VRR)がこの画面のティアリングを補ってくれますが、それには最新の対応テレビ(困った事に現時点では対応テレビが非常に少ない)が必要になります。

*1昨日にVG TECHが最新パッチバージョン1.04での比較テストのビデオが公開され、XboxシリーズXは初期バージョンとは比較にならないくらいにフレームレートが60fpsで安定し、PS5で落ちる場面でも安定するようになりました。そしてシリーズSでは60fpsオプションが追加されました。

XboxシリーズXは、「Dirt 5」でも画質と解像度の両方でPS5に遅れをとっています。PS5版(画質モード)はテクスチャフィルタリングが向上しており、平均解像度も少し高くなっています。

120fpsを目標としたパフォーマンスモードでは、PS5版のディテールレベルはXboxシリーズXよりもはるかに高いようです。コードマスターズはこのパフォーマンス・ギャップを公式に認め、今後のパッチでXboxシリーズX版の修正をするとしています。

一方、パフォーマンスモードでは、PS5の方がテクスチャ解像度が高いため、Xbox Series Xよりも120fpsを下回ることが多くなっています。

しかし、コードマスターズが両機種のディテールレベルの不一致を修正しない限りは、この2つのモードを比較するのは難しいでしょう。いずれにせよ、Xbox Series Xの可変リフレッシュレートは確かにゲームプレイ体験をスムーズにするのに役立ちますが、実際には最新機能に対応したディスプレイでないと、効果を実感出来ないので、そこも問題です。

Call of Duty: Black Ops Cold Warでも、両機種間の違いを示しています。レイトレーシング性能ではXboxシリーズXが有利であることを示していますが、120fpsモードではXboxシリーズXがPS5より劣っています。

Black Ops Cold Warにはレイトレースされたシャドウが含まれており、レイトレースされた反射ほどのインパクトはありませんが、シーンに自然な奥行き感を与えています。PS5はレイトレーシングを使用した一部のシーンで40fpsに低下しますが、XboxシリーズXでは60fpsを維持しています。どうやらレイトレーシングが絡むと、この初期の段階でさえも、XboxシリーズXが強いようです。

これらの比較を見ると、ほとんどのシナリオでXboxシリーズXがPS5を上回っているわけではなく、多くの場合、ソニーのPS5がリードしています。これらの違いのいくつかはバグのせいかもしれないようです。

トム氏によると、Xbox Series Xの開発環境について開発者(匿名を希望)に話を聞いたようで、実は物事が少し複雑であることは明らかなようです。

マイクロソフトは、ゲーム開発者キット(Game Developer Kit)のアップデートを配信した後、6月にのみXboxシリーズX認証のためのゲームタイトルの提出することを許可しました。それは、開発キットの割り当てのための、同社のかなりタイトなスケジュールだったようです。トム氏は、一貫して多くの開発者がXbox版よりもはるかに前に、PS5の開発キットにアクセスしていたと聞いたようです。

この事から、XboxシリーズX、シリーズSの開発キットはPS5よりかなり遅れていたことが推測されます。

開発者が次世代機向けのゲームを作るための新しいソフトウェアやツールに慣れ、そのコンソールのパワーを完全に解き放つまでには、当然ながら時間がかかります。ある開発者は、Microsoft がGDKに切り替えたことで、ユーザープロファイルの切り替えやゲームパッドのリンクなどの基本的なことが面倒になったと話しています。

マイクロソフトは、開発者にとっては厄介であった『Xbox One』以来、何年もかけてツールの状況を改善してきました。しかしトム氏は、開発者が従うべきドキュメントをより明確に提供するという基本的な部分でも、ソニーのツールが優れていると一貫して聞いていと述べています。

しかし、すべての開発者がまだ GDK に慣れていないわけではありません。「DiRT 5」の開発チームは、XboxシリーズX の発売に先駆けてマイクロソフトのGDKを賞賛しました。

「Xbox Series X の開発に向けて、ハードウェアを手に入れるずっと前から準備を始めていました。Xboxのこのような考え方により、次世代機の開発を先取りすることができたので、初期の Xbox Series X ハードウェアを受け取った後は、本当に早く開発を開始することができました。」

と、コードマスターズのテクニカルディレクター デイビッド・スプリンゲート氏は、 6月のXboxWireのインタビュー(当ブログで日本語訳を紹介済)で語っています。

初期段階のタイトルとは言え、XboxシリーズXのパワーを発揮出来ていないかのようなパフォーマンスのギャップ、奇妙なバグ、XboxシリーズX版とPS5版の違いは、Xboxのプラットフォームの問題というよりも、ゲームに関連する問題のように見えるとトム氏は述べています。

トム氏は、「マイクロソフトが、匿名の開発者の言うようにソニーよりもはるかに遅れて開発キットやツールを提供したのであれば、クリエイターがXbox向けにさらに最適化するのに時間がかかる可能性があり、発売前の数ヶ月間はXboxシリーズXのゲームプレイがあまり見られなかったのに、ソニーはPS5版のゲームプレイを定期的に配信していたのも、これが理由かもしれない。」としています。

とは言え、どちらにしても多くのゲームパッチに期待しましょう。実際に「アサシンクリード:ヴァルハラ」も最近リリースされた最新パッチ1.04でXboxシリーズX版もシリーズS版も劇的にパフォーマンスが改善し、シリーズX版ではPS5を超える安定性を獲得しています。

コードマスターズも『DiRT 5』の修正を行っています。また、マイクロソフトは開発者と協力して問題解決に取り組んでおり、TheVergeへの声明では比較映像でのパフォーマンスの不安定さを認めているようです。

マイクロソフトの広報担当者

「Xbox Series X|Sで最適化されたタイトルの一握りにパフォーマンスの問題があることを認識しており、最適な体験を保証するためにパートナーと積極的に問題の特定と解決に取り組んでいます。

新しい世代のコンソールを始めるにあたり、パートナーの皆様は、次世代コンソールで何ができるかの表面に触れたばかりであり、私たちの新しいプラットフォームを最大限に活用する方法を学んでいく中で、マイナーなバグ修正が期待されています。

私たちは、今後も開発者と協力してXbox Series X|Sの機能をさらに探求していきたいと考えています。」

しかし、マイクロソフトはXbox Series Xのために「AMDからRDNA 2の完全サポート」を待っていた理由についても説明していません。

Xbox部門ボスの、フィル・スペンサー氏は最近のTheVergeとのインタビューで、マイクロソフトが夏の終わりにコンソールの量産を開始したことを明らかにし「Xboxが競合他社(PS5)よりも少し遅れていたのは、私たちのXboxシリーズXとシリーズSのチップ(SOC)の中にある特定のAMD技術を待っていたからです。」とフィル・スペンサー氏は非常に興味深い事実を明かしています。

今回の次世代コンソールがどのようにゲームのプレイ方法を変えるのか、その一片が見えてくるのは、明らかに今後数ヶ月〜数年はかかるとトム氏は予想しています。

トム氏は、「マイクロソフトは、12テラフロップスと「世界で最もパワフルなコンソール」について胸を張っているかもしれないが、それはまだ完全には実現していない。MicrosoftはRDNA2 の完全なサポートと、成熟した開発者ツールのおかげで、時間の経過とともにより大きく、より明白なパフォーマンスの向上が XBOXに出てくるだろうと静かに確信している。」と述べています。

しかし、「RDNA2 の完全なサポート」が何をもたらすのかは、まだはっきりしていません。マイクロソフトは、なぜ開発スケジュールを遅らせてまでして、「AMDのRDNA2完全サポート」を待っていたのか?あるいはなぜ「完全なRDNA2」が重要なのかを詳細に説明していません。

これは、AMDがスーパーサンプリング技術(nVIDIAのDLSSのようなもの)で、将来主流になると思われるレイトレーシング時のフレームレートを向上させ、将来的にXboxシリーズXで利用できる可能性があるかもしれないと推測しています。

結局のところ、重要なのはゲームであり、マイクロソフトの発売ラインナップは、現時点ではサードパーティ製のゲームに大きく依存しており、その12テラフロップスと強力なメモリ帯域幅の性能を新作では十分には発揮していません。

しかし、XboxシリーズXは後方互換性, アクセシビリティ, 前世代アクセサリーのサポートに優れています。マイクロソフトは今後XboxシリーズX、シリーズSの真の力を証明するためにも、23スタジオにまで膨らんだ強力な「Xboxゲーム・スタジオ」から、より多くの優れたファースト・パーティ・タイトルを提供する必要があるとしています。


非常に興味深い記事で、XBOXの量産は夏の終わりからで、AMDからの完全なRDNA2のフル機能をハードウェアレベルでサポートするために、スケジュールを遅らせた事、その影響で開発キットの完成度にも遅れが生じたことなどです。

この話を聞くと、目玉だった「HALO Infinite」の延期、個人的にも注目の「The Medium」の延期など、軒並みXBOXショーケースで披露されたタイトルが延期になったのも、納得と言えるかもしれません。そう考えると、「アサシンクリード:ヴァルハラ」や「DiRT 5」、「COD:Black OPS Coldwar」などをローンチ、もしくはローンチから数週間程度の遅れで発売したUBI、コードマスターズ、アクティビジョンはやはり凄いなと感じます。

マイクロソフトが待ったという「完全なRDNA2機能のサポート」はやはり、nVIDIAのDLSSのような機能ではないかとトム氏は推測氏していますが、マイクロソフトもDirectMLもあり、まだ全貌が見えてないので、よく分かりませんが、今後全てが明らかになった時、どのような機能なのか?どれほど変わるものなのか?このあたりは非常に気になるところです。

しかし、最初に与えてしまった印象というものは、結構後々まで引き摺る傾向にあるので、XBOXはこれを今後全力で払拭しなければなりません。その為にも、ソニーに負けない魅力的なファースト・パーティタイトルが一刻も早く必要になります。それはいくらスタジオを購入したとしても、個々のスタジオの能力、才能にかかっており、困難な道のりである事には違いありません。

本格的な次世代ゲーム機の幕開けは、やはり来年以降という事になるかもしれません。🔚

via TheVerge

7 件のコメント

  • ちなみにヴァルハラは最新パッチでXbox series X版は1080Pになりました…
    パフォーマンスの向上=品質を下げるのであって性能は上がりません

    • パフォーマンスが上がるという解釈は人それぞれではないでしょうか?
      解像度を重視する人、フレームレートを重視する人、、
      この記事での意味パフォーマンス=フレームレートですので。

  • いつも素晴らしいコンテンツに感謝です。
    今回の世代交代は過去最高の複雑さだと感じます。夏辺りから意識して周辺機器共に更新を企んでいた私自身が大変な思いです。指してポンがコンシューマのメリットが全くありません。TV、HDD、アンプ、ヘッドセット全てが繋がるけれど、最高のパフォーマンスを出すのに対応する事が多すぎます。マニアには楽しみでも、そうでない方々には残念な環境です。折角の体験機会なので、すべての方々に堪能して貰いたいです。

    • HDMI2.1、VRR、ALLMなどの新機能で混乱してますよね。。
      おっしゃる通り、コンソールの利点であるコネクタをさしてポンではなくなってますよね。。
      確かにエントリー層のあまり機器に詳しくない方ですと、混乱するかもしれませんね。。
      次世代機が出る年にコロナという未曾有の事態になってしまい、
      様々なキャンペーンにしろ、ユーザーへの周知という点でも十分でない中での発売だった気がします。
      今更言っても仕方ない事ですが、次世代タイトル延期の続出といい、
      正直、次世代機を発売する年ではなかったのかもしれませんね。。

  • そうですね。コロナの影響もありましたね。何年も掛けてきたローンチ年がこれではメーカーは(T_T)昨今開発状況の過程も漏れ出しているので、いつか真相を知りたいですね。昔、マイクロソフトの蹉跌(うる覚え)という本を読んだのですが、同様の書籍でも出てくれればありがたいのです。そのくらい今回の過程は興味深いです。

    • コロナ下での大規模AAAタイトル開発は本当に相当大変でしょうね。。
      まして新ハード開発なども。。

      そう考えると、今年は避けるべき年だったかもしれませんね。

      後々、そういった経緯の舞台裏は私も非常に興味深いです。

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