昨年10月、マイクロソフトが750億ドル(約9兆円)という巨額を投じてCODシリーズ、ディアブロなどを抱える巨大ゲームパブリッシャーの「アクティビジョン・ブリザード」の買収を完了させた事で、XBOX部門の構成、経営方針に大きな変化を与え、その過程で他のすべてのスタジオを危機に陥れているという報道がされています。
マイクロソフトが今年の1月、XBOX部門から1,900人以上のスタッフを解雇した事で、すでに買収による皺寄せかな、、と感じていました。
マイクロソフトのゲーム部門のボスであるフィル・スペンサー氏は当時、買収の影響を受けるスタッフは、新たに買収されたスタジオと「重複が確認された分野」にいると述べていました。
ところが、今週マイクロソフトが新たに閉鎖したスタジオは、まったく別の理由、つまり継続的な収益増加のために、収益率の低い部門が容赦なく閉鎖されたのではないかと感じています。このままですと、素晴らしいゲームを生み出しているのに収益率が低いスタジオが次々に再編名目で閉鎖、もしくは他のスタジオに吸収される事を懸念しています。
マイクロソフトがゲーム版NETFLIXを目指すと息巻き、ゲーム部門の収益の柱になる見込みだったゲームパスなどの月額定額課金のサブスクリプション(サブスク)の成長率は、昨日報道されたサブスク支出増が前年比で僅か1%だった事が明らかになっています。
昨年2023年4月の報道では2%の支出増だった事からも、サブスクの成長が頭打ちになっているのは確かです。ゲームパス開始当初からの契約者増加を定期的に景気良くアピールしていたマイクロソフトもいつの間にか、ゲームパス契約者数を発表しなくなっていました。そして数年ぶりに発表された契約者数は約1000万人増の3100万人で、この時点で既に頭打ちの印象は否めませんでした。
アクティビジョン・ブリザードの買収は、マイクロソフトの財務状況に負債を加えただけではなくて、XBOX部門の収益を大幅に増加させました。 しかし、今後マイクロソフトが成長し続けるために事業再編は避けては通れないのは確かです。
報道では、マイクロソフトの四半期決算報告書を読めば、買収によるインパクト、そして変化がいかに大きなものであったかと指摘されています。
今年1月、アクティビジョン・ブリザードの買収が完了後最初の提出書類では、XBOXのコンテンツとサービスの収入は60%増加、そのうちの55%は新たに迎え入れたスタジオからのもだったそうです。アクティビジョン・ブリザードのゲームからの収益は、今やXBOX部門の全体のなんと3分の1以上を占めているそうです。
MinecraftのMojangや、Bethesda Softworks、Id Software、Machine GamesのパブリッシャーであるZenimax Mediaの75億ドル買収など、マイクロソフトがこれまでに買収したスタジオはすべて、アクティビジョン・ブリザードの加入によって矮小化されているとも言われています。
マイクロソフトの前年の財務報告書では、5%の成長で3600万ドルに相当するとしていたので、55%の成長は4億ドル規模(約620億円)ということになります。 昨年10月にアクティビジョン・ブリザードの買収が完了した後、XBOX部門は以前の規模とは完全に異なる、より大規模な企業として運営されるようになったといえるのかもしれません。それだけ「アクティビジョン・ブリザード」加入のインパクトが大きいという事です。
アクティビジョン・ブリザードの売り上げの占める大きな比率を見て一目瞭然なように、これだけ存在の増したゲーム部門になると、マイクロソフトは株主に対してもゲーム事業の継続的な成長をアピールし続けなければなりません。収益が伸びないものは失敗とみなされ、批判にさらされ、株価に影響を与えます。Xboxのフィル・スペンサー氏は今年3月、Polygonのインタビューで
「この業界にとって私が最も懸念しているのは、成長の欠如です。来年はプレーヤーも市場も縮小が予測される業界で、多くの上場企業が投資家に成長を示さなければなりません。精査されるのはコスト面です。収益面を伸びないのであればコスト面が課題になるからです。」
マイクロソフトが直面している問題は、アクティビジョン・ブリザードのタイトルと比較した場合、収益の伸びという点ではほとんど進捗が中々進まないようなゲームに取り組んでいるスタジオを多く抱えている事かもしれません。
Xboxのマーケティング担当副社長アーロン・グリーンバーグ氏が昨年4月、アクティビジョンとブリザードの買収前に Tango Gameworksの『Hi-Fi Rush』について「このゲームが我々とプレイヤーにとって想定外の大ヒットとなった。」と語って賞賛しています。しかし、昨日、マイクロソフトはTango Gameworksスタジオを閉鎖しました。
マイクロソフトが買収によって新たに見直された事業方針によってTango Gameworksのコスト面が課題となったのかもしれませんが、数々の賞を受賞し社内でも賞賛され結果を残したスタジオが閉鎖された事で、マイクロソフトへの不信感が出ているのは事実です。先日もXBOX部門のエグゼクティブであるサラ・ボンド氏はメディアのインタビューでTango Gameworksの閉鎖について聞かれても曖昧な回答に終始するだけで、明確な回答はありませんでした。これも不信感を増長しているように感じます。
一部の噂で、Tango Gameworksを退社した三上氏が新たに設立した株式会社カムイにTangoのスタッフを引き抜いた事で、閉鎖されたのではないか?という憶測がありましたが、Tango Gameworksでシネマティックディレクターを務めてきたYun M.Watanabe氏など関係者は明確に否定しています。
しかし、こうも傘下スタジオの再編が続くと、マイクロソフトが以前に買収した他の傘下スタジオの行方が心配です。Double Fine、Undead Labs、InXile、Ninja Theory、Obsidianスタジオなどが過去に素晴らしいゲームを生み出し大ヒットを記録しています。
Ninja Theory開発で期待のタイトル『Hellblade 2』は5月21日に発売されますが、マイクロソフトにとって成功とするには、どのような結果を出せば成功と言えるのでしょうか、、他にもObsidianで開発中の『Avowed』は傘下のベセスダが開発中の『エルダースクロールズ』シリーズと明らかに競合するタイトルでもあります。
特にファンから懸念されているのは、『Hellblade Ⅱ』の開発スタジオである、Ninja Theoryです。『Hellblade』は一部にファンから絶大な支持を得ているとはいえ、海外メディアの報道を見ると、メジャータイトルほど大きなファン層からの支持があるわけではないようです。まして、ゲームパスに初日からリスト入りするので、大きな販売数が見込めないのではないかいうことも報道されており、この事からNinja TheoryもいずれTango Gameworksの二の舞になってしまうのではないかと懸念されているようです。
マイクロソフト傘下のXbox Game Stuidoの多くは同じような立場にあり、もはやマイクロソフトの株主が要求するような規模に見合わないゲーム開発サイクルを数年間続けているようです。フィル・スペンサー氏は以前、ベセスダなどを買収した際のインタビューで「我々は買収したスタジオそれぞれの独自のスタジオ文化を尊重しており、マイクロソフトから人員を送り込んで開発を急かしたりそれを無視するような強要はしていません。彼ら独自のペースを保つ事が重要です。」と述べていましたが、アクティビジョン・ブリザード買収によって、それらの方針に変化が生じたのかもしれません。
Xbox Game Studiosの責任者であるマット・ブーティは、昨日のスタジオ閉鎖を発表する声明の中で、“これらの変更は、インパクトのあるタイトルを優先し、ベセスダのブロックバスターゲームのポートフォリオにさらに投資することを根拠としている “と述べています。
海外メディア報道では先々、Obsidianスタジオ『Avowed』や『The Outer Worlds』などから『The Elder Scrolls』や『Fallout』へと開発人員がシフトされスタジオがまた閉鎖されるになるのではないか?という多くのスタジオの今後の行方に懸念の声も出ています。
「アクティビジョンブリザード」の加入によっての弊害が色々と出てきていると実感した次第です。個人的にはやはり大好きなNinja Theoryスタジオの今後が心配です。最新作『Hellblade Ⅱ』は現時点でPCとXBOXのみでプレイステーション・プラットフォームでは発売されないようですし、先に述べた通りゲームパスリストに初日から入るので、販売という点ではあまり期待出来ないわけで、ゲームパス加入者増への貢献など、一定の成功(成果)をあげて、スタジオが維持される事を祈るばかりです。
今回の一連のマイクロソフトの非情な再編は、少なからずネガティブな印象がましてしまったのは、否めないかもしれません。
今後は不信感を吹き飛ばすような良いニュースを聞きたいものです。🔚
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