『マイアミバイス』のエグゼクティブ・プロデューサーで「ヒート」など男の映画を撮らせたらナンバーワンと言われる巨匠マイケル・マン監督と、『マイアミバイス』シーズン1の衣装デザイナー だったジョディ・ティレン、シーズン2コスチュームデザイナーバンビ・ブレイストーンさんら当時の『マイアミバイス』の衣装が今日のファッション業界、映画界、TV界に大きな影響を与えたことについてハリウッドレポーターが対談記事を公開しています。非常に興味深い舞台裏話だったので、一部抜粋して紹介します。
1984年9月16日、米国でアンソニー・ヤーコビッチ制作、エグゼクティブ・プロデューサーマイケル・マンの刑事ドラマ『マイアミ・バイス』シリーズがNBCで初放送されました。
当時は、超スタイリッシュな映像、MTV全盛時代の豪華アーティストによる洒落た音楽とヤン・ハマーの斬新なテーマ曲、劇中曲、従来の刑事ドラマの概念を覆すポップなカラーのファッションでテレビドラマ界に革命を起こした作品です。
マイケル・マンは、 「この番組の狙いは、それまでの既存のあらゆるものの形を壊すことでした」と述べています。
『マイアミバイス』では、ボートを住まいとしているソニー・クロケット(ドン・ジョンソン)と上品なニューヨーカー・ファッションに身を包んだリカルド・タブス(フィリップ・マイケル・トーマス)が、麻薬捜査の覆面捜査官(バイス)に扮し、ゴールド・ロレックスなどの高級時計、高価なアクセサリーを身につけ、フェラーリを乗り回し、様々な危機を回避、大胆なカラーのデザイナーズ衣装を身に纏い犯罪者を追い詰めていきます。
胸のはだけたパステルカラーのTシャツに白いジャケットを羽織るというソニー・クロケットを演じるドン・ジョンソンの象徴的なスタイルは、伝統的なメンズ・ウェアの概念にパラダイム・シフトを引き起こし、40年経った今も続いています。

シーズン1でエミー賞候補者になったシーズン1の衣装デザイナー、ジョディ・ティレンさんは 「マイアミバイスで、男性がパステルカラーを着ることを許可したのです(笑)今日、そのスラウチー(ゆったりとした)なシルエットとソフトなカラーは、現在の俳優たちの衣装にも大きな影響を与えています。」
『マイアミバイス』の根幹であるファッション・カラーは、マイケル・マンさんの妻でアーティストのサマーさんから色彩理論のレッスンを受けたときのものだそうで、その結果、番組シーズン2までは3色で統一されたそうです。
マイケル・マンとシリーズの衣装デザイナージョディ・ティレンさんは、この美学がどのように生まれ、どのような影響を与えたのかを振り返っています。
ジョディ・ティレン
「シーズン1では、アーストーンや原色は使わず、すべてパステルカラーで統一しました。 車の色も、俳優が前を歩く壁も、すべてデザインされたもので、当時の美術からロケ地の選定、衣装と全てが大規模に調整が行われ、画面に映っている映像は綿密な計算の上での結果なのです。」
衣装のカラー、ロケ地など全て計算されて作り出されていたとは驚きです。『マイアミバイス』は今でもたまに見返していますが、ロケ地の雰囲気というかカラーが衣装と妙に合っていて印象に残るシーンが多かったのも、そういう事だったのかと納得です。
『マイアミバイス』衣装デザイナーは毎シーズン、ニューヨークからミラノまで、スタイルの中心地に最新のコレクションを買い付けに出かけていたそうです。
ジョディ・ティレン
「マイアミでは十分な服が手に入らないから、ヨーロッパに行くしかなかったのです。 各エピソードには、スタントマン用、アクション用、天候用、汗をかいた時のスペアを含めて75着の衣装が必要でした。 Tシャツの多くはイタリアから取り寄せたものです。
特にアルマーニが好きでしたね。ラフなデザインのジャケットの下にTシャツを着るという発想。 必ずしも靴下を履いているとは限りません。これは、ユニークな都市を連想させるものです。

バンビ・ブレイクストーン(シーズン2 コスチューム・デザイナー)
パリのプルミエール・ヴィジョンの見本市に行きました。スペインのデザイナー、アドルフォ・ドミンゲスをよく覚えています。オーバーサイズでルーズな彼らの服が大好きでした。
シーズン2のエピソード “Definitely Miami “(邦題:真夏のセクシーレディ! 灼けた肌にひそむ魔性の罠!!)では、ゲスト俳優で敵役の歌手テッド・ニュージェントが彼らのスーツを着ていました。ミラノに行ったのも、チェルッティを知っていたからなんです。
ティレンはいつもアルマーニを着ていたと言われる。 でも、(ファーストシーズンでは)アルマーニは一着も出てこなかった。ちょっと保守的すぎるのです。モンド・ウオモ(イタリアの男性ファッション誌)やヴェルサーチのような大胆なルックが必要でした。アルマーニはそれと比べると物足りなかったのです。
マイケル・マン
クロケットとタブスは、麻薬密売人や裕福なバイヤー、あるいは身分のある人物を罠にかける詐欺師を装っていました。 麻薬取引全体において効果的な方法として、彼らは犯罪者に仲間と思わせなければいけなかったのです。 だから、豪華な車、ボート、飛行機、衣服などを使うことができた。 麻薬取締局はいつもこのようなことをしているのです。

ブレイクストーン
マイケル・マンから受けた衣装の指示は、”まるで朝起きて服を着たような “というものでした。 演出するつもりはなかったのです。いつもは、その週に見つけたものを何でも使っていました。ミントグリーンのTシャツがあれば、彼にミントグリーンのTシャツを着せました。
ティレン
誰もがクロケットはファッショニスタだったと勘違いしていますが、本来の彼はそうではありません。そういう格好をする悪党に潜入するために着ていたのです。 クロケットは普段はシャツを脱いで、靴も履かずにボートに乗っていましたからね。忘れてはならないのは、彼は銃を隠さなければならなかったので、タイトなジャケットは着られなかったということです。はっきりさせておきたいのは、彼の袖を(私が)まくったことは一度もありません。私の記憶が正しければ、ドン(ジョンソン)は撮影現場でそうしていましたね。ですので、私のチョイスではないんです。
タブスのダブル・ブレストのダークスーツは、ヒューゴ・ボスやセルーティのものが多く、クロケットの陽気で反逆的なアンサンブルに対抗すると同時に、マイケル・マンの社会的メッセージを伝えていたそうです。
ティレン
タブスはニューヨーク出身なので、クロケットとは違い、どちらかというとファッショニスタだったのです。彼は意識的に服を着る人だったのです。ベルト、靴下、靴とね。でも、クロケットは無意識の着こなしで、 家を出る前に鏡を見ることはなかったのです。反面、タブスは常に鏡を見て服、身だしなみをチェックいました。
『マイアミ・バイス』の影響でドン・ジョンソンはファッション好きに変わったそうです。2014年にドン・ジョンソンは『Rolling Stone』誌のインタビューで『マイアミバイス』開始の当時は、ブランド服を買いまくるようなお金はなかったけど、番組が軌道に乗った後は買いまくってお洒落になったさ。そりゃ80年代だからね。」と述べています。
ブレイクストーン
ドン・ジョンソンがバルハーバーショップに行きたがっていたのを覚えています。私は彼をヴェルサーチに連れて行き、彼はたくさんの服を試して、自分用、ショー用のものを購入していましたね。
エドゥアルド・カストロ(シリーズ衣装スーパーバイザー、兼衣装デザイナー)
ソニー・クロケットの衣装は、番組が進むに連れてよりデザイナー志向で豪華になり、ドンは『これは誰が作っているんだ?』ということをより意識するようになりましたね。
私は彼が最新のヴェルサーチのジャケットを持っていることを確認しなければならなかったし、当時、ヴェルサーチは本当にとても革新的でした。ドンはアドルフォ・ドミンゲス、ヒューゴ・ボス、バジーレ、ビブロス、ジュリアーノ・フジワラ、ピエロ・パンチェッティもたくさん着ていたし、クロード・モンタナも少し着ていましたね。
『マイアミ・バイス』はデザイナーズ・ブランドとテレビ番組とのコラボレーション・マーケティングの先駆者でもあります。シーズン2で、ブレイクストーン氏はファッション業界での経験を活かし、ヒューゴ・ボスとの商品と画面クレジット提携を仲介。シーズン3では、番組の雰囲気を転換するために、マドンナ、デヴィッド・ボウイ、デュラン・デュランといった当時流行に敏感なアーティストが着用した、カナダのニューウェーブ・レーベルだった、パラシュートとも契約してクレジットされています。
いかに『マイアミバイス』がファッション業界を変えたのか分かる貴重なお話でした。しかし、『マイアミバイス』は衣装だけでなく、ヤン・ハマーの独特の音楽、そして豪華アーティストの楽曲といった組み合わせも、TVだけでなく、映画にも大きく影響を与えていく事になります。
私は今でもよく『マイアミバイス』のDVDを見ますが、衣装も当然ですが、豪華アーティスト楽曲の選曲も素晴らしく、印象的なシーンをより引き立てていて、何年経とうとも改めて傑作だなと感じます。
そして、リーアム・ニーソン、ジュリア・ロバーツ、ブルース・ウィリス、クリス・ロック、ビル・パクストン、ジャンカルロ・エスポジート、ジョン・レグイザモ、ケリー・ユロユキ・タガワなどなど、後に誰もが知る多くのハリウッドスター、そしてフィル・コリンズやグレン・フライ、テッド・ヌージェント、エル・デバージなど多くのミュージシャンも出演しているのも見所の一つです。
未見の方は是非とも見て頂きたい刑事ドラマの傑作です。🔚
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