先日、スクエア・エニックスが『トゥームレイダー』のリブートを成功させた事で有名な「クリスタル・ダイナミクス」スタジオとDeus eXで知られる「アイドス」スタジオ、そして50以上ものバックカタログ(過去作の権利)をEmbracerに約390億円で譲渡すると発表しました。
スクウェア・エニックスがクリスタル・ダイナミクスやアイドス、IOインタラクティブという素晴らしい作品とスタジオを買収し所有していましたが、結果的には全て手放してしまう事になったわけです。
同社は、過去に『デッド・オア・アライブ』や『ニンジャガイデン』などで知られる日本の「テクモ」の買収も試みた事もあります。
日本のゲーム市場は縮小傾向にあり、スクウェア・エニックスは、世界的に知名度のある『トゥームレイダー』や『ヒットマン』などのヒット作を持つスタジオを買収することで、スクウェア・エニックスを世界的なスタジオ連合へ成長させる狙いという事になると思います。
スクウェア・エニックス・ヨーロッパ(現在の社名)は、ゲームユーザーなら誰もが知る知名度があり、既存の名ブランドでもある『トゥームレイダー』を、世界最大のゲームのひとつに育てようと試み、クリスタル・ダイナミクスが開発し大規模なマーケティング・キャンペーンによって、「トゥームレイダー」のリブートは一見、大成功したように見えます。
最終的には1,450万本以上を売り上げ、歴代トゥームレイダーの中で最大の売り上げを記録しました。1,450万本に至るには、大幅値下げなどによる販売も含まれています。
しかし、『トゥームレイダー』が販売された月の販売本数は340万本だったそうで、スクウェア・エニックスの期待していた数値を下回る結果でした。スクウェア・エニックスの洋ゲーの販売目標値が高すぎることは、よく指摘されているようです。
この高い目標値の背景には、『トゥームレイダー』発売の5カ月前、ユービーアイソフトが『アサシン クリード3』を発売し、6週間で700万本を売り上げていたようです。
一方でEidosのブランドは思ったような成果が出なかったようで、投資対効果が低かったようです。
2012年のIOインタラクティブ開発の『ヒットマン・アブソリューション』もトゥームレイダーと同様に「販売目標に達しなかった」ようです。
スクウェア・エニックスはその後、エピソード形式の『ヒットマン』を試しましたが、最終的にこのシリーズは十分な収益を上げることが出来なかった結果、『ヒットマン』IPとその開発会社であるIO Interactiveの撤退を許してしまったようです。
スクウェア・エニックスの販売目標を超えたタイトルは、2011年の『Deus Ex: Human Revolution』でしたが、2016年に発売された続編『Deus Ex:Mankind Divided』は期待外れとなり、シリーズは頓挫してしまいました。
スクウェア・エニックスは自社ブランドを成長させる代わりに、人気絶頂にあるマーベルとのライセンス契約を結ぶという方針転換をしました。
ここでも、スクウェア・エニックスは、プロジェクトに多額の資金を投入し、最高の開発者でもあるクリスタル・ダイナミクスを「アベンジャーズ」に起用し、マーケティングも予算をかけて大々的に行ないました。
しかし、2020年に発売された「Marvel’s Avengers」は、販売でもレビュアーにも失望する結果に終わってしまったのです。2021年に発売された「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」は、レビュアーからは好評でしたが、チャートでは上位に食い込めずに終わっています。
その結果、スクウェア・エニックスはアイドス事業の売却先を探し、マイクロソフトのThe Initiativeスタジオの『パーフェクトダーク』リブート版をサポートするために、「クリスタル・ダイナミクス」が共同開発プロジェクトも引き受けていました。
関連記事:マイクロソフト“The Initiative“スタジオが開発中のリブート版「パーフェクト・ダーク」突如、Crystal Dynamics社と提携し共同開発する事に。
そして、先日突如両スタジオは、Embracer (世界中に多数のスタジオを所有する持株会社)に約390億円で譲渡されると発表され、世界を驚かせました。
3つの強力な開発会社と、多彩で膨大なバックカタログ(過去作の権利)、そして「トゥームレイダーと」いうブランド他すべてを、Embracerは3億ドル(約390億円)で手に入れることができたのです。これは、最近のほとんどのスタジオの価格よりもかなり低いもので、発表された当初その価格に驚いた声もあったようです。私も同じでした。
ちなみに、Embracerは、Gearboxを約4倍以上の13億ドル(約1,697億円)で買収しています。
結果的に、スクウェア・エニックスの洋ゲー事業は収益率がよくなかったようです。コストをかけすぎて、十分な成果を上げることができなかったという事になります。しかし、Embracerは、買収したさまざまな子会社を通じて、そのすべてに対処する方法を心得ているようです。
IO InteractiveはHitmanのIPに集中し、ファンと直接対話しそれを反映させ、より早く、予算内で開発することを学んだ結果、Hitmanは再び成長軌道に乗り、IOインタラクティブの規模は拡大して、James Bondのライセンスも獲得しています。
海外メディアの報道によると、Embracerは基本的に傘下のスタジオが独立して仕事をしているような形態な事もあり、クリスタル・ダイナミクスやアイドスにとっては、今後の事を考えると“良い環境”と言えるのかもしれません。
これは、マイクロソフトがマインクラフトの開発スタジオ「モーヤン」の買収で学んだ事として、買収したスタジオ独自の文化を尊重し、独立性を維持する。という事と同じなのかもしれません。
関連記事:マインクラフトとMojangがXbox(Microsoft)にスタジオの買い方を教えた方法。
つまり、Embracerの傘下では日本の親会社のために欧米で大きな収益、成長など課される必要がなく、大きなグループの一員であること、独立性などの維持などで利点を得ることができるという事です。
スクウェア・エニックスは、素晴らしいブランド、スタジオを所有したにも関わらず、結果的にそれらを十分に活かしきれなかったのかもしれません。
その点では残念でもありますが、クリスタル・ダイナミクス、アイドスなどが、今後Embracerの元でより素晴らしい作品を生み出してくれる事に期待したいと思います。
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